「ブロックチェーンとは『企業横断』を実現するための技術である」一般社団法人JCBI伊藤 佑介が見据えるブロックチェーンの社会実装の未来
- [更新日]2023/08/10
- [公開日]2023/08/09
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「ブロックチェーンとは『企業横断』を実現するための技術である」一般社団法人JCBI伊藤 佑介が見据えるブロックチェーンの社会実装の未来
2021年、突如として脚光を浴びたNFT。数々の高額な取引の話題が取り上げられるなかで、NFTを実装する技術として使われているブロックチェーンも注目を集めました。投機的なNFTは2022年末のバブル崩壊後は下火となっていますが、一方でブロックチェーンは再び脚光を浴びています。 投機的なNFT以外にもさまざまな活用方法が模索される中、一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ 代表理事の伊藤氏は「ブロックチェーンの本質的な価値が再考されるフェーズに入ってきている」と語ります。 投機的なNFTとしての利用にとどまらない、ブロックチェーンの本質的な価値とは何なのでしょうか?2016年からブロックチェーン領域で活動し続けてきている伊藤氏に、ブロックチェーンの社会実装の現在地や今後の展望について取材しました。 一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ(略称:一般社団法人JCBI) 代表理事 伊藤 佑介 2002年に東京工業大学理学部情報科学科卒業後、システムインテグレーション企業を経て、2008年に博報堂へ入社。2016年よりメディア、コンテンツ、コミュニケーション領域におけるブロックチェーン活用の研究に取り組み、2018年からビジネス開発局にて7つのブロックチェーンサービスをさまざまなテックベンチャーとコラボレーションして開発。2020年に、日本のコンテンツ業界のデジタルトランスフォーメーションを業界横断で加速すべく一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブを発足。
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03-6427-5422 ——現在、NFTを取り巻くビジネス環境はどういった状態なのでしょうか。
伊藤:これまではNFTアートが高額で売買されるなど、投機的なトレンドが続いていました。しかし昨年2022年に、世界最大の仮想通貨取引所の1つが破綻したことで投機的なNFTの市況も下がり、2023年現在は落ち着きを見せています。 投機的なNFTの価格は、それ自体に本質的な価値があったわけではなく、仮想通貨の投資家が買っていたからこそ大きく値上がりしていたのだといえます。仮想通貨の価格の下落と連動して一連の投機的なNFTのブームが終焉したことによって、投機的なNFTは仮想通貨の投資家向けの金融商品に留まっていて、マスアダプテーションして一般の生活者に届くところまで行っていなかったということが明らかになりました。 ——たとえばバブルの中で最も有望視されていた“Play to Eearn(プレイすると稼げる)”モデルを掲げたNFTを使ったブロックチェーンゲームはどうなってしまったのでしょうか。
伊藤:残念ながらそれらも一過性のブームに過ぎなかったと言わざるを得ません。そのようなPlay to Eearnモデルにどんな問題があったかについては、市況が落ち着いた4月にニューヨークで開催された国際カンファレンス「NFT.NYC 2023」の多くのセッションで活発に議論されていました。 バブルの最中の昨年の「NFT.NYC 2022」では、カンファレンス自体ではなく、会場周辺でサイトイベントとして開催されていた派手なパーティーに投資家を中心とした多くの人が集まりました。 一方で、今年は人数こそは少ないものの、市況が落ちた中でも「NFT事業を社会実装してマスアダプテーションする」という確固とした意志を持った事業家が中心となって集まり、セッションに登壇したり、展示場に出展していたりするといった違いがありました。そうした事業家が活発に議論していたパネルディスカッションでは、2021年以降の投機的なトレンドを振り返って、「“プレイして稼げる”という謳い文句でNFTをユーザーに売買させるだけのPlay to Eearnモデル中心のブロックチェーンゲームはポンジスキームに陥ってしまっていた。今後は持続可能なユーザーコミュニティを構築できるような新たなモデルを生み出さなければならない。」という過去を振り返った上で未来に向かって一歩を踏み出そうとする前向きな意見が多くあがっていました。 そして今後については、「これまでの投機的なNFTのような売買中心のサービスではなく、NFTを持っている企業のファンやユーザーに対して質の高い体験を提供する新たなサービスへの進化を模索していく」という展望があげられていました。 その具体的な先行事例として、スターバックスが展開している、NFTを活用して会員に対してさまざまな体験を提供する「Starbucks Odyssey」というポイントプログラムサービスについての議論が活発に行われていました。つまり、売買を中心した投機的なNFTを脱して、コミュニティを中心とした体験提供型のNFTへと、新たな社会実装に向けて再スタートを切ったというのが、グローバルの今現在のNFTのステージであると言えます。 ——ブロックチェーンは仮想通貨のための技術だ、という意見も以前はありましたよね。
伊藤:私は、ブロックチェーンは金融領域に止まらず、あらゆる産業領域において「ある企業が発行したデジタルデータを持っているユーザーに対して、様々な異なる企業のサービスを横断して利用できる新たなユーザー体験を提供できるようにする」ことを実現できる技術であると考えています。 なぜ異なる企業が、「自社システムではない」ブロックチェーンシステムに記録したデジタルデータを持っているユーザーに対して、サービスを提供できるのかというと、その理由は2つあります。
まず1つは“公平感”です。ブロックチェーンシステムはさまざまな企業がノードと呼ばれるサーバーを立てて、イーブンな関係で共同運営しているので、ビッグテックのようなある特定の1社が牛耳ることができないため、企業は”公平感“を持って、そのシステムのデジタルデータを持っているユーザーに対してサービスを提供できるのです。 また二つ目は”安心感“です。ブロックチェーンシステムは暗号化技術やコンセサスアルゴリズムによってデータの複製や改ざんがされにくいため、企業は”安心感“をもって、そのシステムのデジタルデータを持っているユーザーに対してサービスを提供できるのです。 ただし今のところは、前述のスターバックスのように「まずは自社で発行したNFTを自社のサービス内で利用できるようにする」ことを最初の一歩に選ぶ企業が多いのが現状です。というのも、サービス連携するためには、ブロックチェーンが実現する技術面の相互運用性だけでなく、ビジネス面においての企業間のアライアンスも必要となるからです。 そういった意味では、スターバックスにように最初にNFTを活用した自社コミュニティを拡大していって、他社が連携するビジネス的なメリットを構築した上で、次のサービス連携に向かうというのは理に叶っているでしょう。 ——伊藤さんは2016年ごろからブロックチェーンの取り組みをされていますが、当時と現在で変化した部分はあったのでしょうか。
伊藤:2016年当時のブロックチェーン関連の国際カンファレンスでは、仮想通貨のような金融以外の航空や不動産、流通などさまざまな領域のプレイヤーが集まって、ブロックチェーンを活用して「どんな課題を解決できるのか」といった議論が幅広い産業にわたって積極的になされていました。しかしその後、2021年ごろから投機的なNFTのトレンドが始まって以降、「ブロックチェーンという技術がどんな産業のどのような課題解決に使えるのか」という中長期的な議論よりも、「いかにしてNFTを高値で売れるのか」という短期的な議論に終始するようになってしまいました。 ですが今年のNFT.NYC 2023には再び、日本を含めたアジアの他、世界各国から広く様々な産業の企業が集まっていました。そして例えば、マーケティングソリューション産業のSalesforceは、クッキー規制問題による顧客接点の減少といった“課題”に対し、NFTをCRM(顧客関係管理)の手段として活用して“解決”を図るソリューションを展示していました。 ともすると、投機的なNFTのトレンドが2021年に始まってから2022年にバブルが終焉するまでの間、社会実装という観点においては、時計の針が進んでいなかったという印象を持たれてしまうかもしれません。 しかし、良くも悪くもこの2年の間にNFTを通じてブロックチェーンという技術に対して世の中の関心が集まったことによって、以前より幅広い産業からより多くのプレイヤーが、各領域における“課題解決”をテーマとした取り組みに向けて再び歩み出したことは、今後の各産業界における社会実装を推し進めていくための大きな一歩となったともいえるでしょう。 ——ブロックチェーンを活用する企業には、どういった意識やリテラシーが求められるのでしょうか。
伊藤:ブロックチェーンは「1つの完成した技術セット」ではなく、特定の課題を解決するための「複数の技術の組み合わせ」に過ぎません。そのためブロックチェーン技術を活用する際には、組み合わせる技術の1つ1つについて、「どのような課題を解決するために、どの技術を使うべきなのか」という検討をし、「なぜその技術が必要なのか」という目的の見定めをした上で取捨選択することを意識することが重要であると考えています。 ブロックチェーンの最初のユースケースであるビットコインは、提唱者のサトシ・ナカモトも参加していた「サイファーパンク」という活動家のコミュニティによって、「デジタル上の取引におけるプライバシーの欠如」という課題を解決するための手段として、主に3つの技術を組み合わせて開発されました。 そして、その1つ1つの技術は、その課題を解決するために実現する必要がある特定の目的を見定められて採用されています。具体的には、秘密鍵公開鍵技術は“プライバシーを脅かす認定機関によるKYCが不要な匿名取引の実現”のため、Proof of Work技術は“プライバシーを脅かす運営組織に依存しないシステム運用”のため、そして、Peer-to-Peer分散型タイムスタンプ技術は“プライバシーを脅かす信頼機関に依存しない二重送金の防止”のためといったように、それぞれの技術は個別に達成すべき明確な目的をもってリーズナブル(合理的)に採用されているのです。 この事実を踏まえた上でブロックチェーン技術を活用する際の重要なポイントは、各産業領域において解決したいとフォーカスした課題に対して、この3つの技術のうちのどれが何の目的の実現のために必要であり、どれは必要ではないか、リーズナブル(合理的)に取捨選択することにあります。 例えば、ある金融以外の産業領域においてブロックチェーンを活用して「デジタル上の取引におけるプライバシーの欠如」という課題解決を図ること検討する際、その産業領域においてはシステムの運営組織は法令でプライバシーの保護が定められているということであれば、「プライバシーを脅かす運営組織に依存しないシステム運用」を実現する手段であるProof of Work技術は不要であると判断して、残りの2つの秘密鍵公開鍵技術とPeer-to-Peer分散型タイムスタンプ技術だけを採用するというリーズナブル(合理的)な取捨選択もあり得るかもしれません。 このように、複数技術の組み合わせであるブロックチェーン技術を思考停止してそのまま鵜呑みにせずに、よく検証するといった技術リテラシーこそが、これから社会実装を進めていくフェーズに入っていく今、求められてきているのだと考えています。 ——横断的なサービス連携に取り組んでいる企業はまだまだ多くないように思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?
伊藤:既存の産業では、現状各社が自社のシステムにユーザーを囲い込んで利益を上げているため、ブロックチェーンという技術を活用すれば技術的には横断的なサービス連携は実現できるものの、ビジネスを営む企業として取り組む意義はありません。各産業におけるブロックチェーンの社会実装を進めるために必要なのは、サービス連携をすることで企業が新たな収益を上げられるビジネスモデルを確立することです。 ブロックチェーンの社会実装の先陣を切り、新たな産業として立ち上がったばかりの仮想通貨交換業界の各社は、ビットコインというブロックチェーンシステム上に記録されたデジタルデータを持っているユーザーに対して、そのデジタルデータをお金とみなして法定通貨と交換するサービスを、企業を横断して提供することを実現しました。そして仮想通貨交換業界は、仮想通貨の売買取引によって利益を得たいという“ニーズ”をもつ“顧客”である投資家から、取引を仲介して手数料という“収益”を得るという明確なビジネスモデルを確立しました。ここで最も大切なことは「どの顧客の何のニーズを満たしてどんな収益を得るのか」といったビジネスモデルの見定めです。 例えばアメリカ国内だけでも数千万人の会員を有するスターバックスの前述のポイントプログラムサービスを利用するユーザーが一定規模に拡大した場合、そのサービスのNFTを持っているユーザーに対して、コーヒーグッズ関連メーカー各社がサービス連携できるようにすれば、それらのメーカーに対してコーヒーに高関与な見込み客を送客できるようになります。 そうすることで、「コーヒーグッズ関連メーカーを顧客として、見込み客であるコーヒー高関与ユーザーを送客して欲しいという彼らのニーズを満たすことで、広告料という収益を得る」といった新たなサービス連携型の広告ビジネスモデルを実現することができるかもしれません。このように“顧客”と“ニーズ”と“収益”の三位一体の構造を捉えることこそが、既存の産業においてサービス連携のビジネスモデルを検討するための要諦と言えるでしょう。 ——ブロックチェーン技術の活用においては、どのようなユースケースに最もポテンシャルがあるのでしょうか。
伊藤:海外送金のようなグローバル間のビジネスを促進するユースケースに特に可能性を見出しています。インターネットは情報を流通させる技術ですが、ブロックチェーンは価値を流通させる技術です。そのため、仮想通貨のような金融的な価値のみならず、コンテンツのような創作的な価値にまで及ぶ様々な価値をグローバルで広く流通させられるポテンシャルがあると考えています。 企業横断で日本のコンテンツ業界のデジタルトランスフォーメーションを加速させることを目的に掲げて活動している一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブとしても、以下の公式ホームページに掲載しているように、2022年10月に自由民主党本部で開催された政務調査会 デジタル社会推進本部のWeb3プロジェクトチームの会議で発表した「日本のコンテンツNFTの安心・安全なグローバル流通拡大に向けた環境整備」に取り組んでいます。 参考:一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ公式ホームページ
そして実際に具体的なアクションとして、一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブが支援する以下の日本発のコンテンツ領域に特化したグローバルブロックチェーンプラットフォーム「Sanpō-Blockchain(サンポー・ブロックチェーン)」上で、加盟企業各社がブロックチェーンの社会実装を推し進めるべく、様々なサービスを開発し始めています。 一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブとしては、今後もSanpō-Blockchain上での企業を横断したサービス連携の実現を後押しし、日本が世界に冠たるコンテンツをさらに広くグローバルへ届けられるようにして、業界の発展に寄与していきいたいと考えています。 ——今後、ブロックチェーンはどのように広がっていくのでしょうか。
伊藤:2000年以降のこの20年間で個人の生活を支えるスマートデバイスはインターネットを通じてよりオープンに繋がるようになりました。一方で企業のビジネスの根幹である情報システムは未だにサイロ化して分断されたままです。世の中の全てがオープン化していく時代の潮流の中、企業の情報システムだけがクローズドな状態のままになっている現状は、まさに時代に逆行しているとしか言えません。 この状態を打破して企業の情報システムのオープン化を推し進めていくための手段として、ブロックチェーンという技術を活用していく機運が、中長期的に進んでいくことは時代の必然でしょう。だからこそ、その新たな時代を迎えるために今すべきことは、あくまでも手段に過ぎないこのブロックチェーンという技術を活用して、どんな新たな共創型のビジネスモデルを創り上げていきたいのかを、同じ産業界の多くの仲間で集まって、自由闊達に議論を尽くすことだと考えています。そして一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブも、そのような共創を志す仲間が集まる場の1つでありたいと想っています。 取材:夏野かおる 執筆:中島佑馬
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