今回の対談では、国内では数少ない提案書づくりのプロ「プロポーザルエキスパート®」の水嵜清美さんに、提案書作成についてお話を伺います。前回は「勝てる提案書のつくり方」を題材にセッションしましたが、第3回は「勝てる提案の原石を掘り起こす」をテーマにお話を伺います。
井上 プロポーザルは、チームで進めるという話でしたが、今はどんなチームでやっているのですか。
水嵜 今は、外資系企業内のチームで、世界中にプロポーザルエキスパート®の人たちがいます。最初に話したように、プロポーザルライターさんがいっぱいいたり、さらにはビットマネジャー、ビットデベロッパーさんとか、それを統括するプロポーザルディレクター、チームの管理をするオペレーションの人たちがいます。コンテンツを書く人たちは、提案書のひな型をつくっています。グローバルの提案書って、日本ではパワポが主体ですけど、基本的には、みんなMS Wordで中身を書きます。うちの製品には、こういう強みがある、こういう特徴があるみたいなことを、あらかじめ書いているわけです。そこに、写真が入ったり、いろんな製品があったり。ソリューションとして、これを一式導入するとこんなことが解決できます、みたいなことが全部書いてある。あとは、提案書の構成って、ある程度決まっているので、こういう流れでやりますよって概要があって、詳細があって、付録があって、みたいな。そういうのも全部ひな形があります。製品については、開発の部署と連携して書くので、内容はぶれません。会社として言いたい話がちゃんと正しく入っている、ひな型があるということです。
要するに、コンテンツ管理システムが会社に揃っているので、それを検索して、必要なものを落としてつくる感じです。そういうひな形が、フランス語、スペイン語、中国語、韓国語、日本語、といったように翻訳されて用意されているんですよね。
井上 さすがグローバルカンパニー。
水嵜 でも全部じゃないですよ。たとえ日本語のWordで欲しいコンテンツが提供されていても、結局そこからカスタマイズしないといけないし、場合によっては、コンテンツ管理システムとは別に、ほかの目的でつくられたスライドを日本語化して、内容が合っているかどうかの確認にだけ使うこともあります。
日本には、そういうライターさんたちは存在しません。日本には直接営業とかかわる、ビットマネージャーしかいなくて、営業のサポートをするシンプルな一事業所みたいな感じです。第1回で提案書のコンビニの話をしましたけど、まさしく1軒のコンビニでやっている感じです。
だから、ビッドマネージャーが複数いても、あなたは、Aチームのサポートをしてね、次の人はBチームのサポートをしてね、という具合に、日本の営業部門をサポートしているわけです。私は、たまたま最初に入らせていただいたこともあり、かねてよりいろいろな方にメンバーになっていただきました。プロポーザルエキスパート®チームとして品質の高い提案書をつくるには、それぞれの得意分野を活かしつつ、横の連携を取りサポートし合うというのが理想です。それがうまく回っていたときは、勝率も上がり、品質も喜ばれて、非常によかったと思っています。グローバルでは、この仕事はこの人がやると契約で決められているので、本当はそんなゆるいやり方は認められていないのですけどね。
井上 グローバルでは、横の連携はないんですか。
水嵜 ないみたいでした。私は日本の立場に立って、お願いして日本的なやり方でやらせていただいたのですが、外国人の上司だと説明するのが非常に難しいんですよ。でも、個々の担当者が得意なことをやらせてあげたいし、それで会社の人たちも喜んでくれ、結果も出ていたので、これほど良いことはないと思ってましたけどね。
井上 過去形で話すということは、今はチームでやれていないということですね。
水嵜 そうなんですよ。だいたい2、3年ぐらいで体制が変わってきたので、同じやり方は続けられず、今現在は、特定の大きな案件だけをはば広くご支援していますね。海外に仲間がいて、大きな案件のときは、相談したりサポートもらうことはありますけど。
井上 そういう人がたくさんいるといいですね。
水嵜 そうなんです。たくさんいると、誰かしらに助けてもらえていいですが、連携が難しいのは、日本でも海外でも同じですが、やっぱりお互いがちがう個性や、やろうとしていることを尊敬し合うというか、そういうのがないと、なかなか難しいですよね。
■かっこいいデザインは、土台がなければできない
井上 私の仕事だと、成功事例をケーススタディにして、この業界でこう使われていますよみたいなものを見せつつ提案っていうパターンが多い気がします。
水嵜 そうですね。事例があるとものすごくいいですよね。日本は特にそれ多い気がします。ちなみに、私はこの間まで日本の提案用コンテンツを管理していたのですが、一番人気は会社紹介でしたね。海外では有名な会社でも、日本では知られていないって、割と普通にあるので。
井上 会社紹介の資料って、もう十分揃っているんじゃないですか。業界ごとに、いろいろつくり替えたりするんですか。
水嵜 基本的に私は、標準コンテンツを制作管理しています。各案件によっては、顧客の要望に応じて、カスタマイズすることもありますね。ただ、提案書に、会社紹介は必ずいるので、そのコンテンツをきちんと管理しておくということです。
井上 我々みたいな小さい会社は、まず自己紹介から始まります。うちみたいに知名度もブランド力もない会社は何が違うのか、はっきり見せないと、仕事につながりません。でも、デザイン会社って、どこも「こんなにかっこいいものをデザインしました」みたいなものを見せるわけですけど、それよりもうちは「言葉に強い」を、全面に打ち出すようにしています。お客さんは、上手なデザインを見せられるとセンスの良さを評価するのでしょうけど、本当はデザインって、その前段階のマーケティングとか、会社の戦略とかがあって、その上に乗っかっている表現のひとつなので、「デザインが上手です」は実はアピールになっていないと思うんですよ。本当の価値はその前段階、この商品がどうやったら客先に届くか、ターゲットの心を動かすか、どの媒体を使えば響くか、どういう表現をしたら他社との違いを分かってもらえるか、そこを突き詰めた末に、この表現が一番届くから、このデザインになった、そのプロセスが大事なんです。
そういう意味では、基本は全部言葉なんですよ。戦略は言葉がないとつくれないし、マーケティングとか、人の心を動かすのも言葉が大事で、最終的なデザインにはキャッチコピーが入らなかったとしても、そのビジュアルにたどり着いたプロセスは全部言葉で構築されているんです。だから、言葉がきちんと使えない会社にいいデザインはつくれないと、私、本気で思っています。提案書も当然言葉で構築していくわけですよね。だけど、そこをロジカルに詰めるだけでは、やっぱり伝わらない。左脳で考えた土台の上に、どう右脳の表現を乗せていくかってことじゃないかなと思うんですよ。
水嵜 近いと思いますね。第1回でお話ししたように、私、研修でよく「準備が7割」ってよく言うのですが、最初に何を言うか、お客さんが誰なのか、何を伝えるのかを、営業さんは分かっていて依頼してくるわけですけど、その前段階のところをもう一度詰めて、どういうことなのかヒアリングして、提案のコンセプトやテーマを決めていくことが大事ですよね。
■徹底したヒアリングで勝てる原石を掘り起こす
井上 私も、デザインをつくったり、企画考えたりするとき、必ずクライアントの担当者にヒアリングさせてもらいます。絶対に、オリエンシートに表出していない思いとか、可視化されていない何かがあるので、それを掘り出さないと良い企画はつくれないんです。だから、それってどういうことですかとか、競合はどうしているんですかとか、どんどん掘り起こして、場合によっては営業や開発部隊、社長とか、いろいろな人にヒアリングして、それを解きほぐしていく。すると、なんだ、こんな原石あるじゃないですか、って見つかるんですよね。
水嵜 そうですね、そこまで行けば本当はいいんですけどね。初期の頃、つくっていた法人向けの提案書なんかは、結構そういうのがあって、コンセプト的なものを作るのが上手な技術者の方とディスカッションしていく中で、キーワードが出てきて、その結果、先ほど話したお客さんが発注書を破く(第1回より)みたいな提案書ができたわけです。その案件以外でも、そういった形でキーワードを掘り当てて、それが絵になり、響くものに仕上がって案件が取れたことは、結構ありますね。
井上 ただ、絶対の自信を持ってつくるんですけど、やっぱりお客さんへ見せるとき本当にドキドキしますよ。実は好き嫌いって結構あるので、駄目って言われたらショックだなとか。
水嵜 それは尖ったものをつくっていることと、1人で考えて、自分の手元で醸成しているから、そういう思いになるんですよね。もっと、いろいろな人とディスカッションしながらつくると、もうちょっと着地点が分かるんでしょうけど。
井上 そういわれれば、その通りですね。それゆえに、尖ったアイデアを削らないまま出せるって強みはあるんですけどね。
水嵜 確かにそうですね。何がいいのか分からないけれど、最初の部分がとにかく大事だっていうのは間違いないですね。先日、ある件で、そこを最後まで突き詰め過ぎてスケジュールが狂ったという話を伺ったのですが、プロポーザルエキスパート®のような、進捗管理を第三者的に見れる人を置けばいいのにって心の中で思っていましたね。提案書って文章にしても、構成、見栄えにしても、絶対的に相手を動かさなきゃいけないのは間違いないんですけど、芸術作品じゃないので、ほどほどにっていうのは、基本にあるんですよね。。
井上 それはそうですね。
水嵜 結局、オペレーターとしては落としどころというか、ここまでやれば必要十分だっていうのが分かっているわけですよ。なので、ここまでにしようと決めて、これだったら最低限お客さんの目線は動かせるし、内容が頭に入るねって。このコピーもこれで最低限そろったねという感じで合わせられる。それが尖ったものになれば、渡した瞬間相手に刺さることになるわけですね。
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